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百合。同性愛に嫌悪のある方はバックリターン。 おんなのこばかりのイラストをのそのそ更新。 無断転載・無断使用・二次加工・再配布等を禁止。
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「遅かったね」

「…うん」


カチリと音を立てないようにドアの鍵を開け、玄関に入ったところを無言で出迎えられた。

冒頭の台詞には彼女が必死に抑えているだろう怒りを感じ、思わず背が竦む。


「これで何度目?」

「………」


返す言葉がない。


「…もう、いい」

「………ごめん」


本当に反省しているのか、という疑念の目を向けられる。

けれどそれに対してとやかく言えるような立場では当然ないので、俯くだけ。

目も合わせないこの行動が、彼女の不機嫌を更に増幅させているのにも気付かず。


彼女は寝室に行ってしまった。

パジャマ姿だったから、きっと寝ていたのだろう。

………いや。起きていたんだろうな。彼女は眠りが浅いから。

玄関のドアを音を立てないように慎重に開けたとしても、彼女は起きてしまう。


こんな時間まで、彼女に一切の連絡もせず友人と飲んでいた自分。

そういう時に彼女の存在、彼女の言葉(約束)を忘れる自分。

私が思っているより、自由な時間を持てない彼女。


付き合って2年にもなる。

約束ごとは片手に足りる程だが幾つかしてきた。

今回の『約束』は、未だ1回しか叶えたことがない。

その1回以外、彼女は悩んだり悲しんだりしながら私の帰りを待っていたらしい。

それを聞いた自分は正直「あぁ、そう」という感想しかなかった。

好きな人と同居して、その人が悲しんでいるというのに、そんなことしか思わなかった。

鬱陶しいとか、面倒だとか、うっすらと表情(カオ)に出ていたのかもしれない。

けれども悪いことをしたのだな、という罪悪感もちょっぴりあった。

だから


「ごめん」


閉じられた寝室に向かって小さく謝るしか、なかった。








数日後、仕事を終えて帰ってくると部屋は静まり却っていた。

いつもこの時間は寝ているから静かなのには変わりないのだけれど、何かが違う。


――――家具が減っている。


家具どころか……

彼女は部屋から忽然と姿を消していた。

何の前触れもなく。

書き置きさえなかった。





頭が真っ白のまま、まるで夢を見ているような錯覚に陥ったまま

彼女を捜し回った。

これが現実だなんて、思えなかった。


面倒くさがって約束を守れなかった。

彼女のことを、全然気遣ってやれなかった。

自分のことばかり、考えていた。

彼女に言われたのに。

「あなたは周りのことを全然考えてない」

真剣に受け止めなかった、受け止める気がなかった自分を許して。

だから、どうか、どうか帰ってきて。





数ヶ月後、やっと連絡が取れた。

なのにメールの返信は


『別れましょう』


の一言だった。






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白桃とカシスと
百合がスキ。

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お酒はカシスピーチ。
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今は、カロリの白桃カクテルを賞味中。


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サイト名:白桃とカシス

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