百合。同性愛に嫌悪のある方はバックリターン。
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「嘘でしょう……」
「いえ…残念ながら」
チホの両親を目の前にして、私は事の重大さを再認識する。
家族も、カケルという彼女の元恋人も、長い間ずっと探し続けてきたのだろう。
行方不明になって1年も満たないけれど、それぞれの顔は何年もの疲労や悲哀が浮かんでいた。
この人達にとって、紗由香の罪は大きい。そう感じた。
自室に戻り、先ほどチホに渡された包みを開けてみる。
いつ頃から監禁され犯人が誰であるか、何処に閉じ込められているかを明白に書き綴っていた。
早く助けてほしい、とも。
私はついさっきまでその「犯罪現場」に居たのに、状況を解ってあげられなかった。
「ごめんなさい…」
辛かっただろうに、早くここから出してほしいと私に目で訴えてきていただろうに。
お嬢様とお話出来て浮かれていた自分が酷く滑稽に思えた。
私に出来ることは、彼女の願いを叶えてあげること。
まずは「警察より先に、家族にこの手紙を渡してほしい」という願いを叶える為、翌々日の休みを利用して手紙に記された住所を探した。
それほど迷うことなく、チホの実家に着いた。
外観は、何処にでもあるような洋風の2階建て。
呼び鈴を押す手が僅かに震える。
きっと私は責められるだろう。目の前に彼女がいるのに、私は何もしてあげられなかったのだから。
程なくして、彼女の母親らしき女性が応えた。
『はい』
「あの、私、ついこの間千穂さんとお会いしました。居場所も…知っています」
『… 』
音声が突然消え、余程急いだのかドタバタという足音がこちらまで聞こえた。
玄関の扉が開くと、柵越しに女性と目が合う。
「…あなたは?」
「大倉 香澄(オオクラ カスミ)といいます。連絡もせず、突然すみません」
「いいの、いいのよ…突然でも。どうぞお入り下さい。中でゆっくり聴きたいわ。…私も一度、落ち着かないと…」
女性は興奮と混乱が混じった様子だった。先程から数回、息を整えている。
中へ案内されながら簡単な自己紹介をし、やはりこの女性がチホの母親であることが分かった。
リビングに促され、ソファに掛けるように言われたがとても座る気になれずに立ち尽くす。
廊下では母親である穂乃果(ホノカ)さんが父親の英伸(ヒデノブ)さんを電話で呼び出している。
この時間はサラリーマンならまだ働いている時間なのだが…。
30分もしない内に父親が帰ってきた。聞けば事情を知っている職場の人間が気を利かせてくれたとか何とか。
人に恵まれていることと、人望の厚さが窺えた。
千穂には弟もいるそうだが、高校生なので今は学校にいるらしかった。
中途半端な時間に来てしまったことにさえ申し訳なく思えてきた。
「待たせてごめんなさいね、カスミさん。どうぞお掛けになって下さい」
「はい…」
そこへ玄関のベルが鳴った。
ホノカさんが出迎えると、千穂の元恋人だったという駈(カケル)さんがいた。
千穂を一緒に探す為に定期的にこの家に訪れるらしい。
「ヒデノブさんに連絡を貰ったので」
「そう。ごめんなさい、慌て過ぎて私から連絡するのを忘れてたわ」
「いいですよ。やっと情報らしい情報が入ってきたんですから。…それで、カスミさん?でしたっけ?」
カケルさんはこちらを向き、笑顔を浮かべた。
暫く笑うことを禁じていたような、ぎこちない笑顔だった。
「はい。初めまして」
「早速ですが…お話を聴かせて下さい」
「……先ずはこれを、読んで下さい」
そう言って私はチホから託された手紙を3人に手渡した。
そして話は冒頭に戻る。
信じられないというのと千穂が生きているという実感や安心感が、向かいのソファにいる私にも伝わってくる。
「…警察よりも先に家族に、と書いてあったので、警察にはまだ連絡していません」
「そうですか………いや、ありがとう」
皆が涙ぐむ中、ヒデノブさんが気丈に感謝の言葉を私にくれる。
「私を責めないんですか…」
「この手紙を貴女に渡した時点で、千穂が貴女を信じたということだ。…それに千穂が望んだことを叶えてくれた。責めることなんてないよ」
泣きそうだった。
早く気付いてあげられたなら、こんなに苦しまなかっただろうに
紗由香は何故、千穂を閉じ込めたのだろう。
私には友情にしては行き過ぎた独占欲に見える。
「紗由香お嬢様は……千穂さんが恋愛対象として好きなのかもしれません…」
「閉じ込めておいて、それはないだろう」
警察や関係者に連絡しに行った両親の代わりに、カケルさんが冷静に反論した。
思考にドップリ浸かった私にその声は聞こえておらず、そのまま独り言を続ける。
「…イジメとか嫌がらせにしては、身の回りの世話をしたがるし、ネコだとか、可愛いとか…」
「…………案外、その紗由香って人も今頃後悔してるかもな…」
紗由香という名前を聞いて意識が外に戻った私は、カケルさんのその言葉である可能性に気付いた。
「お嬢様はもしかして…わざと私に彼女の存在を……?」
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