百合。同性愛に嫌悪のある方はバックリターン。
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お嬢様にお庭のお花を活けるように仰せ付かり、私は今し方出来上がったばかりの生け花を満足気に眺めた。
「うん、良い出来」
少し張り切りすぎたかもしれない。
お嬢様がお花を…なんて、本来ならば一介の家政婦になんて頼まない。
庭師だって花屋だってお屋敷に出入りしているのだから、彼らに頼めばさぞかし立派で豪華な作品になるだろうに。
だからこそ自分を選んでもらえたことがとても嬉しくて。
「お気に入り」として特別な存在になりつつあることに、自惚れそうになっている自分を軽く叱咤した。
(私はまだ新人だもの。先輩方にも気を配らないと…)
それでもお嬢様が飼っているというネコちゃんにもようやく会えるんだなぁ…なんて浮かれて、この時までの私は幸せな気分でいっぱいだった。
それが約5分前のこと。
現在。
私は後悔の念やら疑問やら恐怖やらが入り混じった、一種のパニック状態に陥っていた。
離れへ着くとすぐにお嬢様が姿を見せ、ある部屋の前まで案内されたあと「適当に掛けておいて」と言い残して何処かへ行ってしまった。
…ので、私は独りで部屋に入った訳なのですが…………
もう、どうしたらいいのか分かりません…
部屋の中には既に先客がいた。
お嬢様と同い年くらいの女の子が。
それはいい。お嬢様のお友達も遊びに来るのだろうから。
でも何故下着姿。何故ベッドの上。というよりこの部屋にベッド以外の家具が見当たらない。
何処か不自然なのは、部屋だけではなかった。
ベッドの上に座り虚ろな眼をしている彼女はとても儚げで、今にも消えてしまいそうなくらい存在そのものが薄く思えた。
白磁のような肌にハニーブラウンの髪。長い睫にツヤツヤのピンクの唇。これだけ整っているのに、化粧をしているようには見えない。
頬が真っ白だからだろうか。顔色は悪く見える。
彼女は緩慢な動作でこちらを振り向くと、私の存在に今気付いたとばかりに驚き眼を見開いた。
「……っ、あなたが、カスミさん…?」
「あ…はい。えぇと…失礼ですが、貴女は?」
「私はチホ…じゃなくてっそれよりカスミさん、あなたにお願いがあるの」
焦ったように早口で、まるで他の人に聴かれては不味いのだとでもいうように小声で訴えてくる。
とても切羽詰った様子だったので、合わせて私も小声で話す。
辺りを見回し誰も居ないことを確認してからベッドの下へ手を伸ばし、小さな白い包みを私の手へ握らせた。
「お願い。紗由香にも誰にも見付からないようにこれを読んで。読んだら私の家族に渡して。一生のお願いだから…!」
「…………」
あまりに真剣な訴えに、私は胸が苦しくなった。
彼女の身に大変なことが起きている。それもお嬢様絡みで。
これはきっと冗談なんかじゃない。瞳を見れば解る。
私が願いを叶えなければ、このチホという女の子はこの先ずっとあの虚ろな眼をしたままなのだろう。
それだけは確信出来た。
一体、紗由香お嬢様が何をしたのか、此処で何があったのか……疑問は宙に消えた。
紗由香の足音が聞こえた為だ。
私とチホは何もなかったようにお互いから離れ、私は部屋の入口付近に座り直した。
あたかも今までずっと其処に座っていたかのように。
手渡された小さな包みをエプロンのポケットに隠し、花を抱えて待つ。
部屋の扉が開き、紗由香が顔を出した。
「何か話した?」
「…いいえ、特には。挨拶と、お名前を聞きしました」
「そう」
気の所為だと言いたいくらい、部屋の中は緊迫感が漂っていた。
私の言葉を信じてくれただろうか。不安がよぎる。
「チホよ。私の家に居候しているの。見ての通り猫じゃないのよ、ごめんなさいね」
「いえ…綺麗な方ですね」
「…驚いたでしょう、猫じゃなくて人間がいて」
お嬢様は悪戯が成功した子供のように笑う。
けれど居候という言葉を信じられない私はちゃんと笑い返すことが出来ず、代わりに怒ったフリをした。
「せっかく可愛いネコちゃんが見れると思ったのにヒドイです~」
「ふふ。だから謝ったじゃない」
「早く紹介して頂いていたら、私達でもっと持て成して差し上げましたのに」
「いやよ。チホは特別なの」
私がそういうのを全部やってあげたいのよ、と言って愛しげにチホを見遣った。
チホという女の子は僅かに微笑み返し、「嬉しい」とだけ呟いた。
この場に居るのが私でなくても、部屋の雰囲気は異様だった。
これをお嬢様はどこまで認識出来ているのだろうか。
解っていて私を招き入れたのだろうか。
花を飾り終え、離れをあとにしようと玄関を出たところで呼び止められた。
「チホは本当に何も言ってなかった…?」
「……。何をです?」
「…私が部屋に行くまで、何か話さなかった?」
「そうですね~……あ、お花が綺麗だと褒めて下さいました。お嬢様から私の話を聴いているとも」
「そう…」
表情は晴れないものの、一応納得してもらえたようだ。
けれど最後に周りの空気を冷たく一変させ放った一言が、私を凍り付かせた。
「誰にも言わないでね」
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